はじめに
今回は、最近注目されている前癌病変とも云われる嚢胞性膵腫瘍について解説いたします。
膵嚢胞性病変の種類
画像検査法の進歩に伴い、膵臓に水袋状の嚢胞性病変が発見されることが多くなりました。例えば、健診時のエコー検査で偶然に見つかることがあります。これには様々な性質の嚢胞があり、その特徴を見極めることが治療方針を決めるうえで重要です。これらは、通常の膵癌(5年生存率:10%)に比べて性質が良く、同率は50%と治り易い膵癌と云えます。以下、病変の種類別に主な特徴を述べます。
1.上皮に裏打ちされた嚢胞を形成するもの
(1)腫瘍性
- 漿液性嚢胞腫瘍(SCN):中年女性の膵体尾部に好発し、比較的大きな病変が多く、内容は水様の透明な液体で、悪性であることは稀です。
- 粘液性嚢胞腫瘍(MCN):中年女性の膵尾部に好発し、厚い壁を有し5~10㎝の比較的大きな夏みかん状の腫瘍で、内容は粘液性・粘血性、卵巣様間質が特徴です。緩徐な経過を辿りますが浸潤癌に進展すると予後は悪く、腫瘍切除が治療の原則です。
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):膵嚢胞性病変のうち最も多く認められます。膵臓には、膵液を集めて十二指腸まで送る膵管という管がありますが、そのうちの主膵管に生じるものを主膵管型と云います。腫瘍から産生された粘液により膵液の流れが悪くなり、主膵管が拡張することがきっかけで発見されます。一方、膵管の枝に発生するものを分枝型と云い、複数の膵管が嚢胞状に拡張しブドウの房状に見える特徴があります。主膵管型は悪性の頻度が高く、切除が必須です。悪性の頻度が低い分枝型は、乳頭状結節の隆起(5mm以上)で手術の適応を決めます。なお、これらの精査には、専門医によるEUS(超音波内視鏡検査)が不可欠です。
- その他:腺房細胞嚢胞腺腫等
(2)非腫瘍性
- 貯留嚢胞、リンパ上皮嚢胞、先天性嚢胞等
2.内部が融解して嚢胞状を示すもの
(1)腫瘍性
- 充実性偽乳頭状腫瘍(SPN):若年女性(20~40歳)に好発し、大球状で内部は出血壊死性の不整嚢胞です。悪性度は低く、手術で完全切除すれば再発の恐れはありません。
- その他:神経内分泌腫瘍(NET)等
(2)非腫瘍性
- 偽嚢胞(急性膵炎後)、貯留嚢胞(慢性膵炎)等